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東京地方裁判所 平成12年(特わ)3154号 判決 2000年11月15日

主文

被告人を懲役二年八月に処する。

この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、フィリピン共和国の国籍を有する外国人であって、昭和六〇年一〇月二七日、同国政府発行の旅券を所持し、千葉県成田市所在の新東京国際空港に上陸して本邦に入った者であるが、在留期間は昭和六一年一月二五日までであったのに、同日までに右在留期間の更新又は変更を受けないで本邦から出国せず、平成一二年八月一三日まで東京都内等に居住し、もって、在留期間を経過して不法に本邦に残留したものである。

(証拠の標目)《省略》

(補足説明)

一  弁護人は、被告人が、平成一二年二月一八日、東京入国管理局に出頭して不法残留者の容疑によりいったん収容され、少なくとも同年三月一五日までは日本に在留することを事実上許可されて、即日、職権により仮放免されているのであるから、判示事実のうち、同年二月一八日から同年三月一五日までの期間の在留については、出入国管理及び難民認定法による収容が継続されていることにもなり、違法性はなく、不法残留の罪が成立しないのであって、無罪である旨主張する。

二  そこで、検討すると、関係各証拠によれば、次のような事実が認められる。すなわち、

(1)  被告人は、フィリピン共和国の国籍を有する者であるが、昭和六〇年一〇月二七日、九〇日間の滞在許可を得て、本邦に入国したこと

(2)  被告人は、在留期間が昭和六一年一月二五日までであったのに、同日までに右在留期間の更新又は変更を受けないで本邦から出国せず、平成一二年二月一七日まで東京都内等に居住したこと

(3)  被告人は、同月一八日、帰国しようかとの思いもあって、同年三月一五日のフィリピン行きの航空機の航空券を持参して、東京入国管理局に出頭したこと

(4)  東京入国管理局は、同年二月一八日、被告人に対し、不法残留者の容疑によりいったん退去強制令書の執行手続を執ったが、同日付けで、同年三月一五日に自費出国することを許可した上、職権により右自費出国日の翌日までに期間を限って被告人を仮放免したこと、その際、被告人は、実際に帰国しようかどうしようかと内心迷っていたこと

(5)  被告人は、その後、同年三月一五日を経過しても本邦から出国せずに東京都内等に居住し、同年八月一四日、不法残留の被疑事実により現行犯人として逮捕されたこと

などの事実が認められる。

三  右二認定の各事実によれば、被告人が、許可された在留期間を経過して、昭和六一年一月二六日から平成一二年八月一三日まで本邦に残留したことは明らかである。また、被告人は、同年二月一八日に、同年三月一五日に自費出国することの許可を受け、右自費出国日の翌日までに期間を限って仮放免されているのであるが、自費出国の許可及び仮放免の許可は、いずれも在留許可とは異なるものであり、それらによって在留期間の更新又は変更を受けたことになるものではないから、同年二月一八日から同年三月一五日までの在留についても、不法残留の罪の構成要件に該当することは明らかである(被告人は、右仮放免の許可によって、その後、現実に収容された状態にはなかったのであるから、右期間の在留について、法的には収容の継続であって不法残留の罪が成立しないというものではない。)。そして、被告人が、右三月一五日までに本邦から出国せず、その後も五か月間近く本邦に引き続き残留していることなど、本件における被告人の行為を全体として考察すると、本件においては、同年二月一八日から同年三月一五日までの在留についても、実質的違法性を欠くようなものではないというべきであり、被告人には、昭和六一年一月二六日から平成一二年八月一三日までの期間全部について不法残留の罪が成立するといわなければならない。弁護人は、最高裁昭和四五年一〇月二日第二小法廷決定・刑集二四巻一一号一四五七頁の趣旨に照らし、本件における平成一二年二月一八日から同年三月一五日までの在留については不法残留の罪は成立しない旨主張するが、右最高裁決定は、本件とは事案を異にするものであって、弁護人の主張を基礎付けるものではない。

四  したがって、被告人は、平成一二年二月一八日から同年三月一五日までの期間を含めた昭和六一年一月二六日から平成一二年八月一三日までの期間について、不法残留の罪が成立するというべきであり、弁護人の主張は理由がない。

(法令の適用)

罰条 出入国管理及び難民認定法七〇条一項五号

刑種の選択 懲役刑

刑の執行猶予 刑法二五条一項

訴訟費用の不負担 刑事訴訟法一八一条一項ただし書

(公判出席検察官 澤田正史、求刑 懲役二年八月)

(裁判官 服部悟)

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